それぞれの医科歯科連携|Compass デンタルダイヤモンド2022年7月号

それぞれの医科歯科連携

中川種昭(Taneaki NAKAGAWA)
慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科学教室

 はじめに

1985年に筆者は大学を卒業したが、当時は研修医制度がなく、卒業後すぐに歯科保存学教室(歯周療法学講座)に入室し、大学院生として診療と研究をスタートした。診療では、患者のう蝕罹患歯を削って詰める、歯周病に罹患した歯にスケーリング・ルートプレーニングを行う、根尖病巣のある歯に根管治療を行うなど、目の前の処置に精一杯で、「全身状態を気遣う」という視点はもっていなかった。
時は流れ、糖尿病と歯周病との関係が論文で発表され、「歯周病が全身状態に影響を与えるのではないか」と日本歯周病学会でも話題になり始めていたが、そのころの筆者は、喫煙者に対する治療がうまくいかないことや、血糖コントロールのよくない患者の治癒が芳しくないことを臨床実感としては得ていたものの、情けないことに「口腔内の環境が全身に影響する」という視点は、ほとんどもっていなかった。
しかし、2002年に医学部の歯科口腔外科に異動し、筆者の視野は大きく広がった。専門とする歯周病だけでも、糖尿病(腎臓・内分泌・代謝内科)、関節リウマチ(リウマチ・膠原病内科)、ぜんそく(呼吸器内科)、大腸がん(消化器外科)、肝疾患(消化器内科)、アルツハイマー型認知症(精神科)、誤嚥性肺炎(呼吸器内科)、冠状動脈疾患(循環器内科)、周産期合併症(産婦人科)と多様な診療科との連携が必要になることがわかった。他にも、脳膿瘍や原因不明の発熱、皮膚疾患の原因を口腔内に求める依頼があり、「口腔内に多く存在する細菌が全身に影響する」という意識を強くもつようになった。
2022年のいま、医科歯科連携の重要性は増している。患者を介した医科歯科連携では対診を通した情報共有が重要で、歯科医師会レベルで医師会との連携が要となる。われわれ歯科医師が積極的に医科に働きかけることが、患者を中心とした医療に口腔内環境の重要性を認識してもらううえで大切であると実感している。
筆者は医学部の学生を教育しているが、折に触れ口腔内には多くの細菌が存在し、入院患者の予後は口腔ケアの善し悪しで異なるため、医科と歯科の連携が非常に重要であると伝えている。
今後はヘルスケア、予防の時代を迎え、すでに人間ドックに歯科的な項目を含む施設もあることから、歯科単独ではなく、総合的な観点で医科歯科連携を考える時代が来ているように思う。若い先生方も、ぜひ新しい医科歯科連携を模索し、歯科の社会的な地位をより高めてほしいと願っている。

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