歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
Top診断力てすと > 2018年5月号 「下顎埋伏智歯周囲の病変」

診断力てすと  診断力てすと

2018年5月号「下顎埋伏智歯周囲の病変」
3.下顎骨中心性がん

 扁平上皮がんが顎骨中心性に発生することは稀であり、診断に苦慮することが少なくない。WHOの定義では「顎骨内に生じ初期には口腔粘膜と連続性がなく、歯原性上皮遺残から発生したと推定され、かつ他臓器からの転移ではない扁平上皮がん」とされ、同分類では、(1)骨内充実型、(2)歯原性角化嚢胞由来、(3)歯原性嚢胞由来に区別される。本症例では外向性に突出した腫瘤には悪性所見を認めず、深部の再検査と手術検体の検査により、嚢胞壁の上皮成分を認めず、骨髄深部への腫瘍浸潤像を認めたことから、骨内充実型に相当する(図3)。
 わが国における2000年以後20例の報告によると男性に多く、平均年齢が59歳で、通常の口腔扁平上皮がんより若年層に多い傾向がある。約7割が下顎、その半数が埋伏智歯周辺に発生しており、大半は良性腫瘍や嚢胞の診断下に手術が施行された後、確定診断されて再手術となっていることが特徴的である。本症例においても、安易に智歯抜歯を施行していれば腫瘍細胞を播種していた可能性があり、埋伏智歯周囲の異常な骨吸収を認める場合は、抜歯前に組織生検を深部まで採取することが望ましい。
 治療方針については通常の骨浸潤を伴う歯肉がんと同様と考えられ、進行例においても手術療法が推奨される。
経過:初診当日に対合歯の抜歯と生検を施行後、急速に腫瘍が口腔側に増大し、12日目に径38mmに達した(図4)。再生検による確定診断後に導入化学療法を実施し増殖を制御した(図5)後、根治手術(左側肩甲舌骨筋上頸部郭清術、下顎骨区域切除術、血管柄付き遊離腓骨皮弁再建術)を施行した。手術検体においてリンパ節転移は認めなかった。現在術後2年を経過し再発転移を認めず、健側の咬合は術前と不変で、整容的にも満足されている(図6)。

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
図5 再初診時の口腔内写真。自力では閉口できない状態
図3 手術検体のHE染色
(智歯は検査過程で除去)
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
図3 摘出した腫瘤と黄白色の割面
図4 初診12日後
図5 再初診時の口腔内写真。自力では閉口できない状態
図5 導入化学療法後

図3 摘出した腫瘤と黄白色の割面



図5 再初診時の口腔内写真。自力では閉口できない状態

図6 術後1年経過時の3D-CTと顔貌
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
<<一覧へ戻る
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド