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TopQ&A歯科一般 > 顎関節症の因子である筋膜性疼痛について教えてください。(2016年10月号)
Q&A
歯科一般 (2016年10月号)
Q 筋膜性疼痛の捉え方
●顎関節症の因子である筋膜性疼痛について教えてください。
──新潟県・E歯科医院
A
  このところ、肩こりや腰痛など、整形外科や理学療法科の領域で、「筋膜」という言葉を耳にすることが多くなってきました。顎関節症の領域でも「筋膜性疼痛(Myofascial Pain)」が用いられるようになり、2014年に公表された国際的な診断基準の病態分類1)に取り上げられています。多因子疾患である顎関節症の約8割が筋膜性疼痛に関連しているといわれていることから注目が集まっていますが、その詳細に関しては不明な点が多い病態です。日本では用語統一もなされていないので、「筋膜性疼痛」、「筋・筋膜痛」、「筋膜痛」など、いろいろな用語が存在していますが、現在はどれも同じ意味で使われています。

1.筋膜性疼痛の歴史的変遷
  最近注目されるようになってきたことから、新しい概念のように思われるかもしれませんが、1950年代から1980年代にかけて、すでに「筋膜」に関連する病態は顎関節症の領域で取り上げられていました。
  1969年にLaskin2)は、顎関節症の直接的な病態を“Myofascialpain-Dysfunction Syndr-ome”(筋膜疼痛機能障害症候群あるいはMPD 症候群)という言葉を用いて報告しています。とはいっても、当時に議論されていたMPD 症候群は、病態や定義がはっきりしていない「咀嚼筋の筋スパズム」で発症し、心理的ストレスによって長期化すると決めつけていた傾向がありました。しかし、1980年代に登場したCTやMRIなどの高度な画像機器により、顎関節内部の詳細な検討がなされるようになると、筋に由来する原因論はトーンダウンすることになります。
  ところが、CTやMRIを駆使して、関節の変形や関節円板の偏位を画像で確認できたとしても、顎関節症の重症度との一致が認められませんでした。また、症状が改善した例の画像を治癒後に再度撮影しても、治療前の画像と何ら変化が認められない例が多数存在することが2000年をまたぐころにあきらかとなり、関節由来の原因論も支持を得られていない現状があります。
  現在、顎関節症は「関節か?」、「筋か?」というような単一原因疾患ではなく、「生物心理社会的疼痛症候群」として、多角的に捉える疾患であるという意見で世界的にまとまっています。筋膜性疼痛は、その生物的因子の1つで、最も遭遇する可能性が高い器質的因子として注目されています。

2.筋膜性疼痛の捉え方・接し方
  最近の動物研究や臨床研究から、筋膜性疼痛は、運動不足や安静などの不動化によって筋膜部が硬化および重層化し、ツッパリ感やこわばり、コリを伴った毛細血流低下性の深部痛および放散痛、運動障害を生じる病態とされています。つまり、関節の形態異常と咬合不良に由来する筋の過負荷が、疲労や炎症で発症すると思われていた、以前の顎関節症の原因論とは正反対の、運動不足による虚血性の非炎症性疼痛(筋膜性疼痛)が顎関節症の大半を占めているという意見にまとまります。専門学会では、虚血を改善するため、ストレッチやマッサージなどのリハビリテーション領域の治療法を初期治療の第一選択として推奨しています。
  さらに最新の研究3)では、筋膜がストレスや低酸素状態にさらされると交感神経系の亢進により、自発的には収縮しないと思われていた筋膜そのものが自律的に収縮し、筋膜性疼痛が発生するという仮説が提唱されており、支持を得ています。すなわち、運動神経系に支配されている筋が過剰に収縮することで生じると思われていた痛みや疲労感は、心理的ストレスなどで左右される自律神経系の交感神経の亢進により、筋膜が単独で不随意に収縮することで生じている可能性が示唆されたことになります。
  このように筋膜性疼痛は、生物・心理・社会的疼痛症候群として捉えられている顎関節症の生物的因子だけでなく、心理社会的因子にも影響している可能性が示唆されています。このことからも、今後の研究の動向から目が離せない病態であるといえます。
【参考文献】
1) Shiffman E, et al.: Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD)for Clinical and Research Applications: Recommendations of the International RDC/TMD Consortium Network* and Orofacial Pain Special Interest Group. J Oral Facial Pain Headache 2014, 28(1):6-27. for citation: http://www.rdc-tmdinternational.org/tmdassessmentdiagnosis/dctmd.aspx
2) Laskin DM: Etiology of the pain-dysfunction syndrome. J Am Dent Assoc, 1969, 79: 147-153.
3) Van De Water L, et al.: Mechanoregulation of myofibroblast in wound contraction, scarring, and fibrosis: opportunities for new therapeutic intervention. Adv Wound Care(New Rochelle), 2013, 2(4): 122-141.

原 節宏日本歯科大学附属病院 顎関節症診療センター

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