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TopQ&A法律 > 医療過誤による証拠保全時に行うべき対応(2015年8月号)
Q&A
法律(2015年8月号)
Q 医療過誤による証拠保全時に行うべき対応
●患者さんから医療過誤があったと言われ、トラブルになっていた知り合いの歯科医師の診療所で、証拠保全が行われたと聞きました。証拠保全とはどのような手続きでしょうか。もし私の診療所にも行われた場合、どのように対応すればよいですか。
── 大分県・S歯科医院
A
  証拠保全の根拠条文である民事訴訟法234条は、「裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる」と規定しています。医療事件における一般的なケースは、カルテ等の医療記録の改ざんのおそれを理由とする、患者の申立てによるものです。証拠保全が行われたということは、事前に患者からの申立てがあり、そして患者の主張や提出資料に基づいて裁判所が証拠保全の実施を決定したことを意味します。証拠保全の決定に対し、不服を申し立てることはできません。
  証拠保全は、その目的を達成するため、医療機関にとっては不意打ち的に実施されます。具体的には、裁判所執行官が実施の1〜3時間程度前に突然医療機関を訪れ、証拠保全決定書謄本等を送達します。これにより、医療機関は初めて証拠保全が行われることを知ります。医療機関側としては、診療予定に影響のある突然の訪問であり、心情的に協力的な態度はとりにくいかもしれません。しかし、証拠保全手続き自体に強制力はないものの、協力しなければ後の訴訟手続きにおいて患者の主張が真実とみなされる危険や、証拠保全で提出しなかった証拠が訴訟手続きで採用されない危険がありますので、協力すべきです。都合の悪い証拠の意図的な隠匿や改ざんは、決して行ってはいけません。
  医療機関側の対応としては、まず決定書謄本に添付されている検証物目録の内容を確認し、事前に対象物の有無を確認したうえで、保有しているものは準備しておきます。
  証拠保全が実施される際には、通常、裁判官、裁判所の職員、患者の代理人弁護士およびカメラマンといった複数人が医療機関に訪れます。そのため、いたずらに他の患者の注目を集めてしまう可能性がありますので、個室を用意し、すみやかに案内するとよいでしょう。なお、証拠保全は弁護士を代理人としなくとも患者自身で申し立てることが可能ですが、少々専門的な手続きですので、通常は代理人を就けて申し立てられます。そのため、証拠保全には患者の代理人弁護士も臨場するのが一般的です。
  検証物目録記載の対象物のなかに、たとえば、他の保管場所にあるとか、保管期間の経過により廃棄済みなどの理由で現地に存在しないものがある場合は、証拠保全時にその旨裁判官に説明します。
  対象物に他の患者の情報も含まれている場合には、プライバシー保護のため、その部分をマスキングしたうえで提示し、マスキングの理由を説明します。
  患者側の代理人弁護士が「証拠のこの箇所が修正されている」、「頁が欠落している」などと指摘し、裁判所の検証調書に記載を求めることがあります。そのような場合、医療機関としては、指摘の内容をただちに確認し、間違いがあればその場で裁判官に説明します。
  証拠保全を経験済みの病院等であればまだしも、開業医の先生方には馴染みのない手続きであり、初めて証拠保全を経験した先生は困惑するのが通常です。しかし、証拠保全はあくまで証拠調べ手続きの一環であり、医療機関の責任の有無を判断する手続きではないことを理解し、冷静に対応することが肝要です。顧問弁護士や付き合いのある弁護士がいる場合は、決定書を受領した時点でただちに連絡して対応を相談したり、都合がつけば立ち会ってもらうことも有益です。

井上雅弘銀座誠和法律事務所

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