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Q&A
歯科一般 (2012年11月号)
Q 歯におけるカルシウムの増減
●血中のカルシウム量が減ると歯や骨から補われるという説がある一方、完成した歯のカルシウム量は変化しないという説もあります。歯のカルシウム量は、どのように変化しますか。歯におけるカルシウムの増減について、近年の知見を踏まえてお教えください。
──神奈川県・N歯科
A
  ご質問のように、血中のカルシウム量が減ると骨から補われるのは事実です。血中のカルシウム濃度は骨のカルシウムを貯蔵源とし、骨の吸収と生成によって一定になるように調整されています。従って、血中のカルシウム量が減ると、破骨細胞が骨を吸収し、骨の無機成分のアパタイトからカルシウムが供給されることになります。しかし、骨の周囲の組織液はカルシウム及びリン酸に十分富み、骨のアパタイトに対して過飽和な状態にあります。このため、血中のカルシウム濃度が下がったからといって、組織液中の過飽和度が下がり、骨のアパタイトが溶解することはありません。
  一方、唾液にもカルシウムやリン酸イオンがかなりの濃度で含まれ、エナメル質を構成するアパタイトに対して十分に過飽和な状態になっています。一般に、刺激唾液に比べ、安静唾液のほうが過飽和度は低いのですが、エナメル質アパタイト結晶は決して溶解することはありません。ただし、カルシウム、リン酸濃度が十分高くても、何らかの理由でpHが下がると過飽和度は減少し、時として不飽和になることがあります。
  う蝕による歯の脱灰のように、口腔環境がアパタイトに対して不飽和になるとエナメル質アパタイト結晶は溶解し始めます。またコーラ(pH約2.2)や炭酸水(pH約2.7〜4.2)などの酸性飲料水によるエナメル質表層脱灰(酸蝕症)も同様です。この場合、飲料水を口に含むことにより、口腔内のカルシウムとリン酸濃度が希釈され、それだけでも過飽和度は下がります。更に、酸による影響を受けるため不飽和な状態になり、エナメル質アパタイトが溶けます。極論すれば、水で含嗽をするだけでもエナメル質アパタイトが溶けることも危惧されますが、常時唾液が供給され、瞬時に過飽和度は回復するので、その心配はありません。
  話を戻しますが、唾液はエナメル質アパタイトに対して過飽和になっているので、この状態が保持されるかぎり、脱灰は決して起こりません。むしろ、逆に歯が大きく成長するはずで、口腔内すべてが歯で埋め尽くされることになります。しかし、唾液の分泌時には、カルシウムやリン酸以外にも、種々のタンパク質が同時に分泌されます。これらのタンパク質のなかで、スタセリンやプロリンリッチプロテインなどは、エナメル質アパタイト結晶に強く吸着し、結晶の成長点(アクティブサイト)を塞ぐ作用があることが知られています。この作用は極めて強く、更に極少量でもその作用は発揮され、唾液がエナメル質アパタイトに対して過飽和でも、実質的には結晶成長は起こらないため、歯は大きくなり続けません。これらのタンパク質はアパタイトの結晶成長阻害剤として働きますが、口腔内が不飽和な状態になったときには、アパタイトの溶解を抑える働きもあります。
  唾液がエナメル質アパタイトに対して過飽和になる間接的な説明の1つに、歯石の生成があります。歯石にはマグネシウムを含んだβ-リン酸三カルシウム(Mg-β-TCP、ウイトロカイトともいう)やリン酸八カルシウム(OCP)があります。これら歯石の成分は、エナメル質アパタイトに比べると、より高い過飽和度で生成されます。このように、歯は健全な口腔環境が保たれている状態では、大きくなることも、小さくなることもありません。そのため、血中のカルシウム量が減っても、歯から補われることはありません。
【参考文献】
1) Gron P: The State of Calcium and Inorganic Orthophosphate in Human Saliva. Arch Oral Biol, 18: 1365-1378, 1973.
2) Hay DI, Schluckebier SK, Moreno EC: Equilibrium Dialysis and Ultrafiltration Studies of Calcium and Phosphate Binding by Human Salivary Proteins, Implications for Salivary Supersaturation with Respect to Calcium Phosphate Salts. Calcif Tissue Int, 34: 531-538, 1982.

土井 豊朝日大学歯学部 口腔機能修復学講座 歯科理工学

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