歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

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徹底追求 どっちがどっち?
レジン充填
裏層する VS 裏層しない
東京医科歯科大学歯学部 歯科保存在学第1講座
大槻昌幸 田上順次
追求1比べてみよう、どっちがどっち?
現在、市販されているコンポジットレジン修復のための歯質接着システムの使用説明書をみると、そのほとんどが、修復に際して原則として裏層を不要としているものの、窩洞が深く歯髄に近接した部位については水酸化カルシウム製剤(ないしはグラスアイオノマーセメント)によって裏層することを推奨している。その一方で、これらの製品はどれも高い歯質接着力、優れた辺縁封鎖性ならびに歯髄に対する安全性を謳っている。高い接着力を有し、かつ、歯髄に対して安全な歯質接着システムであるならば、たとえ窩洞が深く歯髄に近い場合でも裏層することはなく、そのままレジンで修復可能なのではないだろうか?修復材料の性能が向上する一方で、窩洞深部に対する裏層の意義についてはあまり検討されることなく、従来どおりの方法が踏襲されてきているように思われる。また、近年、水酸化カルシウム製剤による裏層の効用について疑問がもたれている1)
ここでは、接着性コンポジットレジン修復の特徴をふまえて、その際の裏層について検討を加えたい。
追求2どっちにしても、どんなもの?
1.レジン修復における裏層の推移
象牙質に対する接着がほとんど得られず、エナメル質に対する接着とアンダーカットによる機械的保持に期待してレジン修復を行っていたころは、レジン材料の成分モノマーによる歯髄刺激は臨床上無視できないものと考えられていた。すなわち、修復物中の未重合のレジンモノマーが象牙細管を通って歯髄組織に達し、歯髄刺激を惹き起こし、ときには歯髄壊死に陥るという考えから、レジンによる修復時にはセメント等によって裏層することを常としていた。しかしながら、当時においても、象牙質全面を裏層すべきとする考え方と、とくに深い窩洞や窩洞形成痛が著しい場合に限って裏層を行えばよいとする考え方があった。いずれにせよ、レジン材料は裏層して防がねばならないほどの歯髄刺激性を有していると考えられていた。
その後、象牙質にも高い接着力を有する接着性コンポジットレジンが開発された。象牙質に対する接着のためには酸によって窩洞を処理してスメア層を除去することが必要不可欠である。そこで、エナメル質と象牙質を同時に酸で処理を行う、いわゆるトータルエッチングが多くの製品に採用された。ところで、スメア層はバーで削られた削片屑からなり、象牙質の表面を覆っている。(図1)。また、接着するということはレジン材料が象牙質とじかに接合することを意味する。スメア層が除去されることによって、象牙細管が開口し(図2)、透過性が亢進し、未重合モノマーが歯髄に達しやすくなるという考え方から、窩洞象牙質を酸で処理することに反対する声は少なくなかった。 もし、辺縁漏洩や修復物の脱落が起これば、酸処理を行ってスメア層を除去したほうが外来刺激に対する歯髄のダメージは大きい。さらに、酸処理に用いる酸そのものの歯髄に対する刺激も危惧された。そこで、エナメル質のみをエッチングするエナメルエッチングや、象牙質をセメントによって全面裏層する術式もみられた。しかしながら、スメア層を処理しなかったり、裏層によって象牙質を多く覆ってしまえば、象牙質に対する十分な接着力が期待できなくなり、接着性コンポジットレジンの特性を発揮できないことになる。
図1 未処理の象牙質切削面の走査電子顕微鏡像。スメア層で覆われている。
図2 37%リン酸エッチャントで15秒間処理した象牙質切削面。スメア層が除去され、象牙細管が開口している。
図3 コンポジットレジンによって修復90日後のニホンザルの歯牙の病理組織像。窩底象牙質は薄いが、軽度の刺激象牙質(修復象牙質)が形成されている以外に、歯髄組織に変化は認められない。
図4 未重合レジンを充填して180日後の組織像。窩底に充填した光重合型コンポジットレジンに光照射せずに窩洞上部を封鎖した。窩底の象牙質は非常に薄いにもかかわらず、多量の刺激象牙質が認められる以外に、歯髄組織に病的変化は認められない。
図5 コンポジットレジンでの直接覆髄後3日の組織像。露髄部周囲の歯髄組織には、軽度の炎症がみられるのみである(図6とともに尾上の研究3)より)
図6 レジンで直接覆髄後、360日の組織像。露髄部は新生象牙質(デンティンブリッジ)で完全に覆われており、歯髄組織にも病的な変化は認められない。
多くの動物実験により、コンポジットレジン修復における歯髄刺激の主たる要因は辺縁漏洩によって侵入した細菌であり、エッチングの酸やレジン成分モノマーによる歯髄への影響は軽微であることが次第に明らかになってきた。筆者ら2)は、サルの健全歯に窩洞を形成し、リン酸によるトータルエッチング後、窩底にコンポジットレジンの未重合ペーストを填入し、窩洞上部を封鎖し、病理組織学的検討を行ったが、未重合のレジンモノマーによって歯髄が壊死したり、膿瘍を生ずるといった重篤な症状は1例も認められなかった(図3、4)。
さらに、近年では、露髄した歯髄をレジンで直接被覆した場合の病理組織学的研究も動物を用いて行われており3)、その結果、水酸化カルシウム製剤を用いた場合と同様に、レジンで直接歯髄を覆っても、被蓋硬組織すなわちデンティンブリッジが露髄面に形成されることが明らかとなった(図5、6)。また、レジンを直接覆髄材として応用しようとする臨床的な試みも行われている。
一方、レジン材料の歯質接着性能も格段に向上してきており、良好な辺縁封鎖性と窩壁適合性は歯髄を保護するのに有効であることが認識されるようになり、そのために必要な酸処理も広く受けられるようになってきた。いずれにせよ、コンポジットレジン修復において、材料に起因する化学的な刺激は軽微であり、むしろ辺縁漏洩によって侵入する細菌による刺激に対して配慮せねばならない。
2.裏層用材料の種類と特徴
表1に示すように、現在、コンポジットレジン修復における裏層材としては、水酸化カルシウム製剤とグラスアイオノマーセメントが多く使われている。コンポジットレジン修復に限らず、一般に、裏層は薄く塗布するライニングと厚みをもたせたベースに大別されているが、水酸化カルシウム製剤はおもにライニングとして、グラスアイオノマーセメントはライニングおよびベースの両方に用いられている。
表1 コンポジットレジン修復に用いられるおもな裏層材料
水酸化カルシウム製剤
Dycal
Life

Caulk/Dentsply
Sybron/Kerr
グラスアイオノマーセメント
Lining Cement
Base Cement

GC
松風
光重合型グラスアイオノマーセメント
Fuji Lining LC
Vitrabond

GC
3M
Dycal(Caulk/Dentsply社)、Life(Sybron/Kerr社)に代表される水酸化カルシウム製剤は、ベースとキャタリストの2種のペーストからなり、等量を練和して用いる。pHは11〜12付近でアルカリ性を示し、これにより抗菌効果が期待されている。また、二次象牙質形成を促進するとされている。機械的強度や歯質に対する接着力は後述のグラスアイオノマーセメントに劣る。また、光硬化型の1ペーストタイプの製品も開発されている。
裏層用グラスアイオノマーセメントは水酸化カルシウム製剤のような薬理的効果はあまり期待できないが、象牙質に対する接着性や機械的強度に優れている。過去においては、窩洞の象牙質全面をグラスアイオノマーセメントで裏層し、レジン修復を行う、いわゆる”サンドウィッチテクニック”が行われたこともある。商品名が示す通りLining Cement(GC)はライニングとして、Base Cement(松風)はベースとして用いることを目的として開発されたものである。また、裏層用の光硬化型グラスアイオノマーセメントも開発され、市販されている。
そのほかに、カルボキシレートセメント系の裏層材やアパタイト含有の材料も市販されている。
追求3どこが、どれだけ、どう違う?
レジン修復の際には裏層が必要だと教育を受け、長年、そのように治療を行い、満足のいく予後が得られてきた臨床家は、無裏層で深い窩洞にレジンを直接充填することを躊躇するかもしれない。 また、ほとんどのコンポジットレジン材料の使用説明書には、窩洞が深い場合には裏層することを推奨している以上、それに従うことは一般に誤りとはいえない。
水酸化カルシウム製剤は裏層材・覆髄材として広く用いられてきた。とくに、直接覆髄材としてはもっとも優れた材料の一つであり、露髄症例や露髄が疑われる場合には、覆髄材として効果的である。水酸化カルシウム製剤のDycalは使われ始めて30年以上も経っており、若干の成分の変更はあったものの、基本的な構成成分に変更はない。そして30年間にわたり、世界中で各種修復において裏層材として用いられ、高い臨床評価を受けてきた。その一方で、最近では、水酸化カルシウム製剤を裏層材として用いた場合、新生象牙質形成の賦活作用はそれほど高くなく1)、また、機械的・化学的性質が十分でないともいわれている。
一方、多くの研究より、コンポジットレジン成分の歯髄に対する化学的刺激は臨床上問題とならないことが明らかにされてきた。したがって、レジン修復物の残留モノマーから歯髄を保護するための裏層は不要と思われる。また、レジン修復において、裏層を施すことによって、被着面積はそれだけ減少する。よって、裏層は修復材料の歯質に対する接着に対して、むしろマイナスに働くことになる。
ところで、接着性コンポジットレジン修復において、材料および技法の改良によって、歯質接着性能が向上し、また、窩洞への適合性および辺縁封鎖性も改善され、外来からの刺激物質の侵入を防ぐことが可能となった。しかしながら、最新の接着システムを用いても臨床において修復物の脱落例を経験することは皆無とはいえない。まして、気づかないうちに辺縁微少漏洩が生ずることは十分あり得るであろう。では、接着性修復のいまだ不十分な点を覆髄材はカバーし、辺縁漏洩による外来からの刺激を遮断するのに有効であろうか?答えはNoである。グラスアイオノマーセメントのフッ素徐放能や水酸化カルシウム製剤の抗菌性はある程度の期待はできるものの、辺縁漏洩による外来刺激を永続的に遮断するには不十分である。この問題を解決するためには、さらに基礎的な研究が必要であるが、臨床の場においても接着性材料の本来の接着性能が得られるように配慮せねばならない。すなわち、エッチング、プライマー塗布などの歯面処理を正しく行うことが肝要である。また、窩洞の唾液・血液等による汚染は著しく接着力を低下させるので、術中の防湿には格段に留意すべきである。
軟化した齲蝕象牙質(齲蝕象牙質第1層)の下層に齲蝕の影響を受けて象牙細管が結晶状構造物で満たされている層があり、透明層とよばれている。この層は、外部からの刺激を防ぐ一種の防御層と考えられている。接着性修復に際しては、齲蝕象牙質第1層のみを取り除けばよいとされている。窩洞形成中に削り過ぎて透明層まで取り除き、不要に歯髄を刺激してしまわないように、齲蝕検知液をガイドにして、細心の注意を払って齲蝕除去を行うべきである。
追求4比べてみたら、どっちがどっち?
レジン修復において材料成分の歯髄刺激性は臨床上問題ないと思われ、未重合の残留モノマーの刺激から歯髄を守るための裏層は不要といってよいであろう。また、接着面積をより多く確保し、材料の歯質接着力に期待するためにも裏層は避けたほうがよい。ただし、露髄が疑われる場合などのように、どうしても裏層(覆髄)を行わねばならないとすれば、極力、最小面積に留めるように努めるべきである。一方、修復物と歯質の間に漏洩が生じて細菌が侵入した場合、それから歯髄を長期的に守ることを裏層に期待するのは難しい。深い窩洞にも裏層することなく直接レジン修復を行う際には、適切な窩洞形成を行い、接着材料の本来の性能が得られるよう、さまざまな接着阻害因子に対して十分に配慮しつつ、正しい修復操作を行うべきである。
【参考文献】
  1. Cox, C.F. and Suzuki, S: Re-evaluating pulp protection: calcium hydroxide liners vs. Cohesive hybridization, J Amer dent Assoc. 125: 823〜831, 1994.
  2. 大槻昌幸:コンポジットレジン材料および成分モノマーの歯髄に及ぼす影響、口病誌、55: 203〜236, 1988.
  3. 尾上成樹:接着性レジン修復システムの直接覆髄法への応用に関する研究、日歯保誌、37: 429〜466, 1994.
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